買い物王選手権・後編
「畜生、なんなんだアレは!!」 守備兵をしていたジョンは声も大きく悪態をつく。 …尋常な数で無い、何かが街に向かって進んできている…。 その事を察知した彼は、街に報告する為に必死に走っていた。 音と気配は段々と近づいてくる…。 「こんな所で終わってたまるかよぉぉぉぉぉぉ!!」 彼の叫びは、多数の足音と怒号に掻き消され誰かに届く事は無かった…。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 微かな地震…下手したら見落としかねないほどの微かな地震だったが…感知した者もいた。 先ほどまで睨み合っていた冒険者達である。 「…何かが来るわね…。ダイスもよくない目が出てるわ。」 「何か起こるの、キャロル姉? …恐くないといいんだけど…」 「やれやれ、イベント中くらいは冒険者稼業は休めると思うたんじゃがな…。」 「またまたぁ…ライラ様は暇で暇でしょうがなかったくせに!」 先ほどまでの腹の探りあいがピタリと止まり…揃って店を出て行く。 「蒼月、先走る出ないぞ…相手がわからぬのじゃからな。」 「大丈夫!何が相手でも一瞬で蹴散らすから問題なし!!」 「いつも、その後で自分が蹴散らされてると思うな、僕…」 ゴン! 「稟、そういうのは思っていても口に出したらダメよ。…そういうふうに殴られるから」 「…うん」 嵐が過ぎ去った店で店主は一人、呟く。 「冒険者ってよくわからんなぁ…」 心からの呟きであった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 街の入り口…先ほどの冒険者達がたった4人でゴブリンの大軍団を見つめていた。 「久しぶりに暴れるとしたら…こんなモンでしょ。」 「たった四人で防ぎ切れるのかなぁ…?」 「防ぎ切るのよ…でないと、街が大変な事になるわ。」 「…そろそろ来るぞえ… 無駄話は蹴散らしてじゃ!」 大剣が破滅を呼ぶ渦となり、小さい拳が数多の敵を打ち砕く。 風が大蛇となって敵を裂き、鋭い穂先が無数の敵を貫き殺す。 「アハ、アハハハハハハハハ!!!」 「倒しても倒してもキリがないよ…!」 「流石に、少し厳しいわね…でも!」 「コレからが本番じゃ!!」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 日が沈んで、また次の日が昇る頃…最後の一匹が倒れ、辺りは静寂に包まれた…。 被害を未然に食い止めた四人の英雄は…屍の中で眠りについていた。 そこに人影が二つ…。 「うへぇ…こっちは派手にやってんなぁ…イリィ、そっちはどうよ?」 「こっちは全部片付いてるわ、エルノア。…でもコレ、誰が掃除するの?」 二人揃って、顔をしかめる。 「あたし達しかいないんじゃない?」 「私達しかいないんじゃない?」 同じ台詞を同時に言って、揃って溜息。 守備兵が手伝ってくれるのはもう少しだけ先の話し・・・ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「あ〜… 平和っていいにゃぁ…」 冒険者をしているルナティアは日向ぼっこをしながら何をするでなく座っていた。 少しだけ血の匂いがしたが…辺りには戦いの痕以外は何も無いし。 何より先客が四人も寝ているのだ。 日も高い、少しばかり昼寝してもバチは当たらないだろう。 買い物王選手権とやらで面倒くさい戦闘もない。 「あ〜… 本当に平和っていいにゃぁ…ふわぁ…」 しばらくして、実に平和そうな寝息が聞こえてきた。 買い物王選手権はもうしばらく続くのだ、今くらい…ゆっくりしてもいいだろう。 FIN |