〜Zwischenakt〜
────どうしてここにいるのだろう? ふと、目の前の騒ぎを見ながらそんな事を考えた。 『サイロンの領事館で新年のパーティーを開く』 何故、この提案を受け入れたのか…自分でもさっぱりだった。 昔の自分なら、このような騒ぎは好まなかったはずだ…。むしろ嫌悪していたと言ってもいい。 どれだけ騒ごうが、いつかは滅ぶ…それならば、誰とも関わらずに静かにひっそりと。 そう思い、自分の館に閉じこもり変化の無い月日を過ごして来たはずだ。 そんな自分が…そもそも、どうして冒険者なんかしているのだろう? 理由…そう、何か理由があったはず…。 定期的にやってくるアサルトモンスターが煩わしかったから? ―――否、街がどうなろうと知った事か。 変化の無い生活に飽きたから? ―――否、それなら閉じこもったりしない。 戦争に紛れて渇きを癒したかった? ―――否、渇きを癒すだけならもっと堂々とした手段をとる。 どうして、どうして、どうして! 考えても考えても理由が出てこない…そんな自分にもイライラしてくる。 「…様!…如何なされましたか?」 どうやら、不機嫌さを隠す事すら忘れていたらしい…傍にいた者にそう声をかけられた。 「いや、何でも無い…ちと考え事じゃ…。」 そう言って、誤魔化そうとしたら…。 「そうですか…力になれないかもしれませんが、悩み事なら相談してくださいね?」 と、心配そうに言われた。 「何、たいした事ではない…今宵の夜食を考えておったのじゃよ。何せ、数だけはあるからのぅ…。」 ―――いつからだろう、この者の沈んだ顔を見たくなくなったのは…? 「ふふ…確かに色々な料理が並んでいますから…目移りしてしまいますね。」 ―――いつからだろう、この者の笑顔をずっと見ていたいと思うようになったのは…? そんな事を考えつつ、いくつかの雑談や挨拶をこなしながら時が過ぎて行く。 「ちと、人に酔ったのかもしれぬな…テラスで外の空気でも吸ってこようかの…」 「お供します。」 二人で連れ立ってテラスへ出る。その時に、ふと…空を見上げると月が輝いていた。 そして…思い出した。 冒険者になった理由、この場にいる理由…そして、笑顔をずっと見ていたい理由。 こんな簡単な理由だったとは…思わず笑いがこみ上げてくる。 「…急に嬉しそうになりましたけど…どうかされましたか?」 「たいした事ではない…月が綺麗じゃな…と思うてな。」 そう、それが理由。 何かが起こるんじゃないかと思えるほどに、綺麗な月が輝いていただけ―――。 その当てにならない感覚に従った結果…冒険者になり、騒ぎに参加し、愛しい者が傍にいる。 「…ふふふ。」 笑いがこぼれる。 「本当に、嬉しそうですね…。」 愛しい者からも笑みがこぼれる。 「ああ…こういう喧騒も悪くない…と思えてきてな。 これ以上、外に居ても体が冷える。そろそろ戻ろうか、ラビ…。」 「はい、ライラ様…。」 手を取り合って、喧騒の中に戻る…それだけの事でも楽しいと思える。 その時に月を見ながら思う。 ―――これからも何かが起こりそうじゃ…。 空には満天の星と月が…ただ、静かに輝く。 FIN |